特異性(Specificity)・・・測定対象物質だけを測れるか?

測定対象物質に構造の類似した物質は,時として抗体に認識され,測定値に入り込んでしまう事がある.特異性は使用する抗体に依存する.したがって,抗体の特異性の吟味を充分に行うべきである.基本的には抗体の特異性の検討はそれが用いられるアッセイ系に従って行なわれるべきであるが,一般的な特異性の検討は次の2種類の方法で行なわれる.
 
a.競合的反応による特異性の検討
ラジオイムノアッセイ等の競合的結合原理による測定法(Competitive assay)で用いられる検討法である.すなわち,一定量の標識した抗原に一定量の抗体を加え,その系に非標識の抗原あるいは類似物質を濃度を変えて加え,抗体と結合した標識抗原の量の減少をグラフにするものである.
非標識抗原を加えたものは,いわば測定の標準曲線にあたる.類似物質によって仮に曲線が得られたとすれば,交差反応有りと判定し,両曲線を比較してもしも両者が平行ならば,水平距離は見かけの親和性の比になっているので,その水平距離から交差率を計算する事ができる.類似物質によって抗体に対する標識抗原の結合が減少しない場合は交差性なしと判定する,一方,類似物質添加によって標識抗原の結合が減少するが,減少曲線(阻害曲線、inhibition curve)が標準曲線と平行しない場合には交差はするが部分的であると判定する.部分的とは抗原と構造類似物質との間には共通の抗原決定基があるが,共通でない決定基もあるということである.
このような競合的反応による特異性の検討は,ラジオイムノアッセイのような競合的測定法では一応通用する.しかし,測定原理の異なる測定法や免疫組織化学的,ウェスタンブロットなどには必ずしも通用しない.なぜなら,構造類似物質の中に不純物として抗原が存在している可能性も多いのである.ラジオイムノアッセイでは不純物があってもそれは純粋な抗原との交差率として処理され,もともと不純物の含量は少ないはずであるし,真の交差性がなければ測定結果には影響しない.一方,非競合的測定法では不純物であるかないかは大きな問題である.

b.非競合的反応による特異性の検討
標識した抗原,あるいは標識した構造類似物質を一定量とり,それに濃度を変えた抗体を加える.そして抗体と結合した標識物質の量を調べる.
標識抗原の場合抗体濃度を上げて行くと結合量が増大し,ついには100%近くなる.
これに対して,標識類似物質では交差しない場合には抗体濃度をいくら増加させても結合は増大しない.交差性がある場合には抗体濃度が充分に高ければ結合量は大きく増大する.部分的な交差でも同様である.この区別はつかない.不純物として抗原が含まれている場合には,抗体の濃度をいくら上げても結合は不純物の含量以上には増大しない.