ELISA誤差・変動について 若林克己
総 論
誤差とは偏差(バイアス,偏り)と変動(バリエーション,バラツキ)の二つから構成される.
偏差とは真の値から一方向に逸脱してしまうような測定値が出ること.
変動とは答えがバラついてはっきりした測定値が求められないこと.
である.
ELISAの誤差を考える時には,この二つの要因を区別して考えて行くことが必要である.
偏りについて-どうして偏った測定値が出るのか,原因を考えよう.
●標準品に関して
標準品の純度が良くない.
標準品が試料中の測定対象物質と必ずしも構造上同一ではない.
標準品の重量測定が間違っている.
標準品の希釈が間違っている.
標準品の希釈過程で保護タンパク質等の存在がないと吸着現象が起きる.
●測定試料に関して
試料の採取方法が悪い...たとえば溶血
試料の保存方法が悪い...測定対象物質の変性
試料中に測定対象物質の分解酵素が含まれている.
試料中の測定対象物質に多様性があり,標準品と構造の異なるものも存在している.
試料中に測定に用いる酵素の活性を阻害する物質が含まれている.(洗浄操作で軽減されるが)
試料と標準品を別なピペットで添加した場合容量が同一ということは保障できない.
●抗体に関して
抗体が測定対象物質を認識する場所(エピトープ)が同じでない.
抗体が標準品と試料中の測定対象物質を等しく認識しない(それぞれに対する親和性が異なる).
●測定系,測定法に関して
標準曲線作成系と試料の反応系に乖離が生じている.たとえば
標準曲線系のウェルが端にあるために起こるエッジ効果(エッジ現象).
試料の構成成分による抗原抗体反応の速度,反応平衡への影響
吸光度測定装置(プレートリーダ)の測定に偏差がある.多数のウェルを同時に測れる器械では多数の光検出器をパラレルに使用しているが,検出器の規格性能が偏っているために,あるウェルまたは複数のウェルについて正しく吸光度が測れない可能性がある.
標準曲線回帰式がうまくフィットしていないことを確認せずに試料の測定値を計算するなど.
バラツキに付いて
バラツキとは,通常変動係数CV(Coefficient of Variation)で表現される.
CV = 標準偏差(SD)/平均値(Mean) x 100 (%)
つまり平均値に対する標準偏差の割合をパーセンテージで表現したものである.
ところで標準偏差を計算するには,
であるから,先ずSSを求め,それを自由度で割ってVを求め,その平方根をもとめてSDとする.
反応系全体のバラツキ=Σ(それぞれの要因のバラツキ)⇒吸光度のバラツキに反映
⇒検量線の形態を介して⇒測定値のバラツキ
ここでのバラツキとは,具体的には平方和をさす.
測定操作順にバラツキの生じる要因を考える
●反応前のMicroplate 洗浄
洗浄液残り(試料の希釈効果)
●試料添加と抗体と標準品,試料との結合反応に付いて
要因」:試料の濃度不均一(凍結融解で起こる溶質の不均一分布),試料の希釈の不均一
試料(標準品)のピペッティング ⇒ 各論参照,温度のバラツキ(エッジ現象),
時間的バラツキ
●Washing (洗浄液残りによる影響) ⇒ 各論参照
キャリーオーバー効果 ⇒ 各論参照
●酵素標識抗体(ビオチン標識抗体)添加と反応(ビオチン標識抗体は試料と同時に加えられることもある)
要因:ピペッティング,温度のバラツキ(エッジ現象,時間的バラツキ,標識抗体の
非特異的吸着-blank値増加,低濃度領域での測定感度悪化とバラツキに関連
●Washing (洗浄液残りによる影響) ⇒ 各論参照
●発色液添加と反応
要因:ピペッティング,温度のバラツキ(エッジ現象),時間的バラツキ
●反応停止液添加と反応
要因:ピペッティング,呈色の安定性 ⇒ 各論参照
●吸光度測定 ⇒ 各論参照
Microplateのwell間の吸光度のバラツキ ⇒ 各論参照
吸光度測定の精度(測定器の問題)⇒ 各論参照
以上のばらつきの原因は,最終的には吸光度のバラツキ,そしてそれは測定値のバラツキとなって現れる.
バラツキを最小限に留めるには,それぞれの要因についてバラツキを出来る限り抑えるよう考えて測定操作を行うことが必要である.それは操作の手腕によるところもあるし,ハードウェアの選択によるところもある.
おもな要因についての各論
●ピペッティングについては,最適なピペットの選択と使用法を考えることが必要である.
まず,当然のことだが試料のピペッティングの誤差はダイレクトに測定値に影響する.例えば1 %間違えれば測定値には1 %影響する.ところがELISAの場合,抗体は,キャプチャー抗体にしても標識抗体にしても大過剰に加えるので,こうなると数%の入れ違いは問題にならない.もともと大過剰なのですから反応には影響しにくい.この後はELISAでは酵素活性の測定となる.ELISAでは酵素活性のバラツキが考えられる.酵素活性の測定に使う色原性基質やカップラーなど,これも大過剰に加えるのでピペッティングの変動は殆ど影響ないと思われる.
最適なピペットの選択とは,試料の添加量とマッチしたものを選ぶことで、例えば10 μLの場合には,チップ交換式の10 μL専用,あるいは最大量10 μLの可変ピペット(例えばエッペンドルフのモデル4910,0.5-10 μL)を選ぶことである.最大200 μLまで測れるようなピペットで10 μLを測り取ると,バラツキは10 %以上になる可能性がある.アッセイの精度を落とす最大の原因になってしまう.またピペットのチップ中に残る「液残り」をどう処理したらよいのかが問題となる. チップ式ピペットの使用法としては,以下に記す2つの方法がある.のうち,どちらかを用いることで対応されたい.両方を混用せず,どちらか一方に統一すること.
a.「プレウェッティング」法
チップ交換式ピペットでは最も一般的な方法である.
b.「共洗い」法
この方法は緩衝液などがすでにウェルやチューブに入っている場合にのみ適用できる.何も入っていないウェルの場合には,プレウェッティング法を行うこと.
◎溶液を放出した後ブロウアウトしても少量が内壁をぬらしている.この分を調整するためにプレウェッティングや共洗いが必要なのである.プレウェッティングと共洗いを両方行ってはいけない.
◎プランジャー2段押しのタイプでは、絶対に二段目までプランジャーを押し込んで吸入してはいけない.余分な溶液が大量に吸い込まれてしまう.必ず一段目で止めて吸入すること。
◎せわしく何回もプレウェッティングを行うと,勢い余ってファーストストップを多少行過ぎたりするとオーバーピペッティングとなってしまうし,チップ中の溶液がプランジャーの動きについて行けなくなり,チップ内の空気が先行しては排出され,次に吸い込んだ時にその分だけ余分に溶液が入り込む可能性を生じる.特にプレウェッティングの後に分注のために試料を吸い上げるときにはややゆっくりと行い,ややゆっくりと排出することが肝要である.チップの中の液体の動きから目を放さないこと.
◎粘度の高い液体を取り扱う場合には特にゆっくりとプランジャーを動かさねばならない.さもないと液体がついてこられなくなったり,チップの管壁に残ったりする.タッチ&ゴーもゆっくり行う.粘度の高い液体のデリバリーには,可能な限り共洗い法を推奨する.
◎ELISAではピペットで洗浄液を吸い出すことは止めよう!
一定量の試薬溶液や検体を容器から取り出すにはどうしてもピペットが必要であるが,ELISAの施行中にウェルから液を取り出すことは危険な行為である.ELISAでは,洗浄後の洗浄液の廃棄に際してピペットで吸い出す人が出て来る.このことは,1.ウェルの底部を引っ掻く可能性がある,2.多連(8連,12連)ピペットなどではウェルプレーに対する並行性を保つことが困難で,液残りに偏りを生じ,それを意識すると引っ掻きを起こしやすい.
ウェル中の液の廃棄には振り棄てを推奨する.
●エッジ現象とその対策
エッジ現象(エッジ効果とも言う)とはウェルプレートの一番外側に位置するウェル(図の着色部)は他の内部のウェルと比べて外界の温度の影響を受けやすいことから、その部分での反応が他の部分より進行し過ぎる,或いは抑制されることを言う.
冷蔵庫に保管してあったウェルプレートや試薬,検体を室温より低い状態で使用すると外側が先に暖まって反応が速くなり,吸光度が高くなる.冬ではヒーターの温風又はストーブの輻射熱の影響を受け,夏ではクーラーの冷風の影響を受ける可能性がある.
その結果,Blank(ゼロ濃度)の吸光度が最低の標準品濃度のウェルより高くなったり, Blankを含めた2重測定の標準品ウェルのプレート端側が常に吸光度が高いなどという現象が見られることになる.
特に初心者に起こり得るエッジ現象の原因として,ピペッティングを行う際に,ウェルプレートを利き手の反対側の手で保持してしまうことがあげられる.つまりピペッティングの際ウェルプレートがずれ動くことを気にして図のA1の角に人差し指,そしてH1の角を親指で押さえてプレートをホールドする,あるいはもっとしっかりプレート左側と下側を人差し指と親指の腹で囲ってしまうなどする.このホールディングは特に色原性基質たとえばTMB溶液を加える際に行われると,溶液を入れ終わるまで指の周辺が加温され続けることになるのでエッジ現象のもとになるのである.通常プレートの左端は標準曲線用に用いられるので,ブランクの吸光度が低濃度標準液のそれよりも高くなる可能性を生じる.
対策としては,
◎キットの全構成試薬(固相化プレート,試薬類等全て)を1時間半以上室温に戻し,手で室温になったのを確認後、使用すること.(扇風機の風を当てると室温化が速くなる)
◎20~25度の気相インキュベーター内で一定の温度下に反応させる.
◎エアコン,ストーブの風が当たらぬよう、また輻射熱源(測定者自身も)をすぐ傍に置かないよう注意すること.測定者はプレートに密着しないよう適度に距離を置いて操作するのが好ましい.
◎ウェルプレートの下にプレートよりもやや大きめに裁断した滑り止めシート(百円ショップで玄関マットなどの滑り止めとして販売している)を敷いてプレートをホールドせずにピペッティング出来るようにする.
などが必要である.
●キャリー.オーバー(濃度の高い試料溶液からのコンタミネーション)と液残りによるバラツキの発生を防ぐ方法.
ELISAにおいてキャリーオーバーの生じる可能性は,標準品または検体の添加・反応後の最初の洗浄である.まず反応液を振り棄て,最初の洗浄では,洗浄液の添加は連続ピペットを使用し,Blank(濃度ゼロ)のウェルから始めで高い濃度のウェルの方向に順次250 μLの洗浄液を加えて行き,最後の標準品(最高濃度)のウェルが終わったら,2,3度洗浄液を外部に捨てて,検体ウェルに移る.すべてのウェルに入れ終わったら,ウェルプレートを軽く揺すり,その後洗浄液を流しに振り棄てる.この後は洗浄液を噴射瓶からウェルに加えて行き(心配ならもう一度連続ピペットで加えてもよいが),揺すってから振り棄てる.つまり最初の危険な過程が済めば,その後はキャリーオーバーの危険はないのであるから,噴射瓶からの洗浄液添加で十分なのである. 溢れても一向に構わない.われわれの実験では最初の結合反応で,最高濃度の標準品では90 %以上は抗体と結合していることが分かっている.最高濃度のウェルから検体のウェルに移る際の2,3度の洗浄液の外部への廃棄は結合し残りの標準液がピペットチップの先端外側に付いている可能性を考慮している.
一方濃度の最も低い標準液では50 %弱しか結合していないので,Blankへのキャリーオーバーが懸念される.したがって洗浄液の添加はまずBlankから始めるのが良いのである.
推奨するウェルの配置とピペッティングの順序.
標準液の0はBlank(濃度ゼロ).1~7は最低濃度から最高濃度の番号.Sの付いているのは検体番号.
使用直前の洗浄
○プレートを片手で持って第一回目の洗浄液を洗浄瓶から各ウエルに満たす.
○次に流しの上で一気に逆さまにする.
○逆さまの状態で96ウエルの液を流しの中に振り落とす.(3回位,手が滑ってプレートを落とさないように注意)この操作を指定回数(3-4回)繰り返す.
○最後の洗浄液を廃棄後,片手に何枚か重ねたペーパータオルを持ち,その上に別の手で保持したプレートを何回も叩きつけてプレート底面に残った洗浄液を落とす.この操作で固相化抗体が剥がれ落ちることはない.
○洗浄液が残っていない事を確認する.
吸光度と比色定量
一般的に比色定量ではLambert-Beerの法則が利用されている.
Lambert-Beer’s low
log10(Io/I) = εlc ε:モル吸光係数(M-1・cm-1),l:吸収層(cm),c:濃度(M)
つまり,透過率の逆数の対数(吸光度,absorbanceと呼ばれる)は呈色物質の濃度に比例すると言うことである.
一般に比色計では吸光度(absorbance)と透過率が示されるようになっている.
たとえば入射光の50%が吸収される場合には100/50=2 log2=0.301,透過率10%では吸光度1.0,1%の透過率では2.0となる.表示してみよう.
透過率% | 99.9 | 99.5 | 99 | 90 | 80 |
吸光度 | 0.00043 | 0.00218 | 0.00436 | 0.0457 | 0.0969 |
透過率% | 50 | 10 | 5 | 1 | 0.1 |
吸光度 | 0.301 | 1.000 | 1.3010 | 2.000 | 3.000 |
ELISAにおける吸光度のバラツキと測定値のバラツキの関係-検量線の読まれ方
吸光度の変化は測定値にどう影響するか? 検量線上の位置により影響はどう異なるか?
それにより,吸光度のバラツキから測定値のバラツキを推定できる.吸光度のバラツキを検討する際に必要なデータとなる.
ラットインスリンELISAキットTでの検討結果.
検討の仕方:ウェルプレート1枚全部を使用して検量線系を10重測定で実施した.Replicateを多くするのは平均値と標準偏差の信頼度を高めるためである.
それをもとに吸光度と測定値の関係を検討した.
先ず吸光度の測定結果を示す.
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | Mean | SD | CV% |
2.398 | 2.484 | 2.492 | 2.464 | 2.511 | 2.513 | 2.486 | 2.505 | 2.5 | 2.492 | 2.4845 | 0.0336 | 1.3545 |
1.286 | 1.271 | 1.272 | 1.263 | 1.279 | 1.3 | 1.299 | 1.306 | 1.285 | 1.323 | 1.2884 | 0.0184 | 1.4349 |
0.61 | 0.604 | 0.609 | 0.612 | 0.61 | 0.602 | 0.597 | 0.606 | 0.602 | 0.624 | 0.6076 | 0.0073 | 1.2173 |
0.275 | 0.292 | 0.283 | 0.286 | 0.284 | 0.284 | 0.271 | 0.29 | 0.273 | 0.287 | 0.2825 | 0.0071 | 2.5375 |
0.147 | 0.147 | 0.144 | 0.152 | 0.146 | 0.149 | 0.146 | 0.146 | 0.149 | 0.148 | 0.1474 | 0.0022 | 1.5068 |
0.086 | 0.088 | 0.091 | 0.091 | 0.092 | 0.092 | 0.088 | 0.089 | 0.089 | 0.092 | 0.0898 | 0.0021 | 2.3358 |
0.07 | 0.071 | 0.07 | 0.075 | 0.069 | 0.071 | 0.071 | 0.07 | 0.07 | 0.072 | 0.0709 | 0.0016 | 2.3460 |
0.06 | 0.064 | 0.06 | 0.061 | 0.06 | 0.06 | 0.061 | 0.061 | 0.061 | 0.057 | 0.0605 | 0.0017 | 2.8362 |
標準曲線の表現法を4種類示す.

一般的に勾配が緩やかな場合や曲りがきつい曲線では回帰曲線の良好な適合性は期待できない.
Normal(X)-Normal(Y) のスケールで描いた検量線は低濃度部分の標準点が密集してしまい,見分けがつきにくいが,肉眼で見えにくいだけで,回帰式から計算する場合には問題ないことが分かる(この場合Blank値を差し引いて描いた検量線を使用している.さもないと濃度ゼロと標準点1の間で曲率が大きくなってその影響が低濃度領域に及ぶ可能性がある.).
一方Log(X)-Normal(Y) のスケールで描いた検量線は,低濃度部分の勾配が非常に緩やかであることと中-高濃度での曲率の大きさのため,回帰曲線の適合性は良くない.回帰曲線の計算には適していない.
Blank値を差し引いたLog(X)-Log(Y) スケールでの3次回帰式を使用することを推奨する.
吸光度とそのバラツキについて
上記の表にある各標準点における吸光度のバラツキを分かり易いようにグラフにして見た.

このキットでは吸光度は最高でほぼ2.5である.吸光度のバラつきつまり標準偏差は吸光度が小さくなると明らかに減少する.一方吸光度の平均値に対する標準 偏差の割合を見ると吸光度の減少とともに大きくなってゆく傾向が見えるが最小と最大との比はほぼ2倍でしかない.つまり絶対誤差は吸光度に従って大きく変化するが相対誤差はそれほどは変わらないと見てよいであろう. このことは標準曲線を描く際,縦軸も対数目盛りをとったほうがよいと言うことが示唆される.
Rat insulin ELISA kit S-typeの例
この場合には通常良く行われる3重測定の結果を示した.
Std (ng/mL) |
Abs.450(⊿620)nm | mean. | SD | CV(%) | ||
10 | 3.458 | 3.622 | 3.593 | 3.558 | 0.088 | 2.5 |
5.0 | 2.182 | 2.239 | 2.197 | 2.206 | 0.030 | 1.3 |
2.5 | 1.151 | 1.173 | 1.195 | 1.173 | 0.022 | 1.9 |
1.0 | 0.429 | 0.429 | 0.419 | 0.426 | 0.0058 | 1.4 |
0.50 | 0.201 | 0.195 | 0.201 | 0.199 | 0.0035 | 1.7 |
0.25 | 0.104 | 0.100 | 0.110 | 0.105 | 0.0050 | 4.8 |
0.10 | 0.062 | 0.062 | 0.066 | 0.063 | 0.0023 | 3.6 |
0 | 0.047 | 0.044 | 0.049 | 0.047 | 0.0025 | 5.3 |
前と同じように各標準点の吸光度に対する標準偏差とその変動係数とをグラフにしました.
前と同じような傾向が示されている.
このキットでは吸光度の最大が3.5という大きさで,この時変動係数は高くなるように見受けられる.これは測定器の問題ではないかと考えられます.吸光度が3であるとすると,呈色は非常に濃くこの波長での光の透過率は1/1000以下であることになる.そのような微弱な光になるとバラつきがやや大きくなってくるのは止むを得ないのかも知れない.
次にこの測定系を使って,もし吸光度が2%多かったら測定値はどの程度変わるかを計算してみた.
STD No. | 吸光度 | 計算値 | 吸光度+2 % | 計算値 | ⊿% |
0.1 | 0.063 | 0.1004 | 0.06426 | 0.1047 | 4.28 |
0.25 | 0.105 | 0.2496 | 0.1071 | 0.2572 | 3.04 |
0.5 | 0.199 | 0.5018 | 2.034 | 0.5124 | 2.11 |
1 | 0.426 | 0.9977 | 0.4345 | 1.0159 | 1.82 |
2.5 | 1.173 | 2.5119 | 1.1965 | 2.5612 | 1.96 |
5 | 2.206 | 4.9683 | 2.25 | 5.0902 | 2.49 |
10 | 3.558 | 10.0479 | 3.629 | 10.4286 | 3.79 |
⊿%で示した数値が元の吸光度から2 %吸光度がずれたと考えたときの測定値の変化である.
即ち標準品濃度0.5 ~5ng/mLの範囲内では吸光度の変化が測定値の変化に大体対応していると見て良いであろう.0.5 ng/mLより薄い濃度や5 ng/mLより濃い濃度では吸光度の変動は相対的に測定値にそれ以上の大きな影響を与えると考えられる.
とは言うものの,ラジオイムノアッセイなどの競合的測定法よりは低濃度での測定制度のバラつきははるかに小さいということが出来る.これは両対数スケールでプロットした際の標準曲線の勾配が低濃度領域でもRIAほど小さくならないからなのである.低濃度でのバラツキの増加は,光度計の性能やウェルプレートの光学的均一性(厚さとか傷)の問題が主要な原因となっていると思われる.
そこで緩衝液だけをウェルに入れて48個分吸光度を測定してみた.
測定結果は次の通りであった.
0.006 | 0.006 | 0.005 | 0.004 | 0.004 | 0.004 | 0.003 | 0.004 | 0.004 | 0.004 | 0.002 | 0.003 |
0.004 | 0.003 | 0.001 | 0.003 | 0.002 | 0.003 | 0.003 | 0.004 | 0.002 | 0.002 | 0.003 | 0.002 |
0.005 | 0.004 | 0.003 | 0.004 | 0.003 | 0.003 | 0.002 | 0.003 | 0.003 | 0.003 | 0.003 | 0.001 |
0.005 | 0.005 | 0.002 | 0.003 | 0.003 | 0.003 | 0.003 | 0.003 | 0.003 | 0.002 | 0.002 | 0.004 |
小数点以下3桁がこの器械の測定限界なので,それ以上の細かい情報は得られない.
Mean | SD | CV (%) |
0.00325 | 0.00112 | 34.5 |
吸光度自体は勿論非常に少なく,平均0.00325,透過率に直すと99.25%になる.0.00125と言うSDの値はBlankや最低濃度標準液のバラツキの半分程度に相当し,Blankや低濃度領域でのCVの大きさにかなり寄与していることになる.
吸光度関連のまとめ
●一般的にELISAにおいては低濃度領域の相対的吸光度の変動が大きい.それは以下のような原因による.
●検量線の形と吸光度-測定値に関して
ELISAの検量線は低濃度領域と非常に高濃度の領域で勾配が緩くなる.それは両対数で表現すると明瞭に認識できる.
この傾向は一定の吸光度の変化は勾配の緩くなる領域で大きく測定値に影響する.したがって吸光度の変動は勾配の緩い領域でより大きな測定値の変動を与える.
以上のような現象が,低濃度領域において総合的な吸光度のバラツキを大きくし,それが検量線の形の影響と重なって低濃度領域での測定値の変動をより大きくしているのである.
作成 05/07/19 Revised 07/11/15
