ELISAの検量線                                  若林克己

 

ELISAでの検量線と測定値の計算

イムノアッセイのキットを用いた場合の検量線の描き方やそれを用いた試料の測定値の計算法などについて,よく質問を受けます. 検量線は測定原理によって変わります.競合的結合原理(competitive binding)を用いる測定の場合には検量線についてかなり近似的な理論的解析がなされており,X軸,Y軸に何をプロットするか,で様々な検量線を作ることができ,またどのような回帰式を用いるかが選択されます.シバヤギ製品のほとんどは非競合的測定法(non-competitive assay)に属するELISAですが,その検量線をどう描くかでよく質問が多いのです.ここでは実例を挙げながら極めて初歩的な解説を試みましょう.

1.ELISAの指標
 指標として酵素活性,蛍光強度等が用いられます.
 酵素 → 色原性基質 → 色原 →(カップリング)→ 呈色
 酵素 → 蛍光色原性基質 → 蛍光性物質→(励起光)→ 蛍光
となり,呈色の場合には吸光度,蛍光の場合には蛍光強度が指標とされます.

吸光度と比色定量 
 比色定量はLambert-Beer’s lowに基いています.
  吸光度=log10(Io/I) = εlc    ε:モル吸光係数(mol-cm)l:吸収層 c:濃度
 つまり,透過率の逆数の対数(吸光度,absorbanceと呼ばれる)は呈色物質の濃度に比例すると言うことです.
 一般に比色計では吸光度(absorbance)と透過率が示されるようになっています.
 例えば入射光の50%が吸収される場合には100/50=2 log2=0.301,透過率10%では吸光度1.0,1%の透過率では2.0となります.したがって吸光度が2.0以上では精度を確保するのは困難です.ELISAの測定範囲の上限はこの辺に設定されています.

蛍光強度
  F = φIo(1 - 10-εcl
     Io:励起光強度 φ:量子収量 ε:分子吸光係数 l:吸収層 c:濃度
 希薄溶液では F = 2.3εclkφIo   k:計測器定数
となり,放射能の場合と同様酵素によって変換されて生じた物質の濃度と直接関連する数値です.したがって酵素活性を直接示していると考えてよいでしょう.

2.ELISAでは測定値をどう計算するか
A.マニュアル計算
1.検量線を描く
ノーマル・スケールの方眼紙を用いて縦軸に吸光度,蛍光強度,横軸に標準品濃度そのものをとることもあります.(低濃度の標準点の間隔が狭くなる)
片対数方眼紙を用いて検量線(標準曲線)を描く:縦軸に吸光度,蛍光強度,横軸に標準品濃度の対数をとります.(低濃度の標準点のY軸方向の間隔が狭くなる)
両対数方眼紙を用いて縦軸に吸光度,蛍光強度の対数を,横軸に標準品濃度の対数をとります.プロットした標準点を自在定規を使ってつなぎ,検量線を作成します.

2.試料濃度を計算する
各試料のabsorbanceや蛍光強度からY → Xで読み取り,試料についての濃度を求めます.
● マニュアル計算についての注意事項
① ノーマル・スケールの場合
広い範囲で検量線を描くと,低濃度領域の標準点の感覚が狭くなり,判定することが難しくなります.自分の試料の吸光度が低濃度領域になる場合は,高濃度の部分を切り捨てて低濃度領域のスケールを拡大すると良いでしょう.
② 片対数スケールの場合
高濃度領域は良いのですが,検量線の勾配が低濃度領域で緩いため,Y値に対する肉眼的な判定が難しくなります.したがって低濃度領域ではマニュアル計算での使用は勧められません.
③ 両対数スケールの場合
低濃度,高濃度いずれに関しても平等に判定が可能です.マニュアル計算にはこの方法を推奨します.

 以下に示す計算機処理の場合には,どんなスケールを採っても,回帰曲線が標準点とよくフィットしていれば,問題はありません.回帰曲線が良くフィットするような変換法が望ましく,その為には,曲線の曲がりの緩やかになるような方法が有利です.
 Blankの吸光度をそれぞれの標準点の吸光度から指し引いた値を使って検量線を描くのもフィットネスを良好にする方法となります.低濃度での曲線の勾配が緩いときには有効です.
また,一般的に,試料が低濃度領域にある場合,高濃度部分を除外して回帰曲線を計算するほうがより良くフィットします.ただし,この場合,2次曲線ならば標準点は3点以上,3次曲線ならば4点以上が計算上必要です(係数の数を考えてください).

B.回帰曲線による計算機処理
検量線のデータから,回帰曲線をまず求めます.
モデル関数
 一次関数(一次回帰直線):Logit変換の場合に実用的です
 二次関数(二次回帰曲線):曲線が1方向に曲がっている場合に有効です
 三次関数(三次回帰曲線):Logit変換の場合特に適合しやすい.変曲点のあるシグモイド,逆シグモイド型にも対応できます
 4パラメータロジスティックモデル:シグモイド,逆シグモイド曲線に適合します
 現在プレート・リーダーにプログラムが導入されている場合があり,それを用いれば改めて数値を入力する手間が省けます.

stdcurve01

1次回帰 Y = aX + b         パラメータ = 2
2次回帰 Y = aX2 + bX + c       パラメータ = 3
3次回帰 Y = aX3 + bX2 + cX + d  パラメータ = 4
1次回帰式は直線,2次回帰式は一方向に曲がっている曲線ならカバーできます.
変曲点を持つような曲線は3次回帰曲線でカバーできます.

Four parameter logistic model

stdcurve02

または

stdcurve03

(右上がりの曲線の場合にはこのほうが分かり易い)

stdcurve04

X = 0 の時 Y = a
X = infinity のときY =d
X = c の時 Y = ( a + d )/2 (a とdの中点)とします
b:曲線の形を調整
式から分かるように,曲線の形によってはよくフィットしない場合があります.

C.回帰と計算の具体例
 ELISAにおいてはY軸に吸光度,蛍光強度等をとり,X軸に X, やLog X をとると,測定範囲を広くとれば高濃度領域でも曲線の勾配が減少してきてシグモイドタイプとなります. 部分的には(低-中濃度領域では)放物線様となります.X軸,Y軸にどのようなスケールを用いればよいかは一長一短がありますが,以下にその実際をシバヤギのラットインスリンELISA キットTタイプを例として示してみます.勿論キットが変われば曲線の形は変わってくるのですべてのキットがこのようになる訳ではありませんが,傾向は同じです.
 先ず,検量線用の生データは下表のようになります.

 標準品濃度
pg/mL

  Absorbance
(450 nm – 620 nm)
 0  0.031  0.031
 156  0.086    0.087
 313  0.142    0.145
 625  0.258    0.263
 1 250  0.483    0.483
 2 500  0.850    0.890
 5 000  1.401    1.449
 10 000  2.199    2.221

標準品濃度が倍々となっています.これは測定範囲が広いためと,測定精度が濃度に対して一定,つまり相対誤差が一定となる傾向があるため,測定範囲が広い場合にはこのような濃度設定のほうがよいのです.
 
注意:対数スケールの場合にはゼロ点は除外して計算しないと,エラーとなる.

X軸とY軸を共にノーマル・スケールにすると

stdcurve05

 この場合回帰曲線は3次多項式を使いました.よくフィットした曲線になっています.
 ここには示さないが,2次回帰でもかなりよくフィットします.
 この場合問題は各標準点の距離が一定にならず,低濃度領域では過度に近接するので,方程式から求める場合にはかまわないとしても,マニュアル計算で測定濃度を計算するには向いていません.試料中の測定対象物の濃度範囲が低濃度領域に集まっている場合には,下の図のように高濃度部分を切り捨てて低濃度部分だけの検量線を描くことをお薦めします.

stdcurve06

156 – 2 500 pg/mLの範囲にして検量線を作製してみると,上のような検量線が出来ます.この範囲では直線に近いカーブとなり,3次式ではもちろん非常によくフィットします.マニュアルでの読み取りも比較的楽に出来そうです.
X軸を対数スケールにし,Y軸はノーマル・スケールにすると

stdcurve07

つまり片対数方眼紙を使用することになります.一般的にはこのようなスケールのとり方が良く行われます.
 当然各標準点の間隔は等しくなります.しかし,低濃度領域の勾配が緩やかになってしまいます.

X軸とY軸を共に対数スケールとすると
両対数方眼紙を使用するのです.

stdcurve08

ほとんど直線的といってよいくらい,なだらかなカーブとなり,この場合3次曲線が良くフィットしています.

(以 上)
 
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