A.測定とは何か

1.定性的検出:最も手軽な方法で、あるかないかを判定する
 この場合、+または-で結果を表現します。従って結果を統計処理するときには出現率の検定程度になってしまい、情報量からいえば極めて不充分です。

2.定量的測定:絶対量、相対量、活性値など数量的に表現できるようにする
 この場合、「ある」、「ない」以外に「どれくらいあるか」という情報が加わります。これによって多くの統計処理が可能となり、様々な面からの評価が可能となります。

 Measurement: 広い意味で「寸法、大きさ、広さ、長さ、厚さ、深さ、量」などを測ること、または測って得られた
        数値。
 Assay: もともとの意味は
    1 鉱石を 試金する。 金銀などの含有量を調べる。
    2 …を 分析(評価)する。分析の結果 …の 含有を示す。試金、分析評価、分析物、試金物、(試金) 分析表、
    などです。

 医学・生物学・化学的には、DorlandのMedical Dictionaryによれば、
 Determination of the purity of a substance or the amount of any particular constituent of a mixture.
 すなわち、「混合物に含まれる或る特定の物質の量または純度を決定すること」を意味します。これには物質の単離法を加えるか、あるいは測定系の特異性が高いことが要求されます。

3.絶対量の測定と相対量の測定
 絶対量とは、「その事物に固有の量(広辞苑)」というはっきりしない定義がありますが、ここでは、たとえばグラムで表現できる質量などと考えておきましょう。グラムと言えば誰もが重さを想像できます。
 測定対象の物質をグラム(mg、 μg、 ng)などで示したいのがアッセイの目的ですが、そうは行かないこともあります。
 たとえば、「力価」(potency)とか「活性値」(activity)あるいは「単位」(unit)で表現しなければならない場合も出てきます。これらをここでは相対量と呼ぶことにします。これらは定義が無ければ全く何のことか分かりません。
 絶対量で表現できるもの:たとえばステロイド、甲状腺ホルモン、ヒスタミンのような小分子物質は100%純粋なものが入手できるので、生物活性が安定しているものは重さ(正確には質量というべきだが)で表現することが可能であるし、安心していられます。
 相対的にしか表現できないもの:たとえば蛋白ホルモンとか酵素のような大分子物質は100%純粋なものが入手困難でした。最近は大分子物質でも合成品や精製品が手に入る場合があり、重さで表現されることもあります。しかし、そのような物質が生理活性を持っていて、力価の異なる分子種が存在するような場合、しかも不活性化の可能性のある場合には、重さで表現しても余り意味が無いことがわかるでしょう。このような場合には生理活性を単位として表現するのがむしろ当を得ています。また抗体なども抗原との結合を指標として測定すると重さではなく活性値とか力価(単位重量あたりの活性値)で表現せざるを得ません。

注意事項
 “mole (記号はmol)”と“M”について
 非常にしばしば取り違えることの多い単位です。充分注意が必要です。
 mole(モル):重さの単位です。グラム分子といわれ、分子量にグラムをつけた量を言います。たとえばAという物質の分子量が350であるとすれば、この物質の1moleは350gです。1moleの中にはその物質の分子が6.022045 x 1023個(これをAvogadro数、Avogadro numberという)の分子が含まれています。言い換えればある物質6.022045 x 1023個の分子の重さが1molなのです。

 M(モーラー、molar):濃度の単位です。1リットルの溶媒の中に1moleの物質が溶けている濃度です。すなわち、1mol/Lで、1リットルの溶媒に1moleを溶かすのではありません!念のため。
 測定の分野では、nM、pM、fM、aM などが通常使用されます。ちなみに、n=10-9(ナノ)、 p=10-12(ピコ)、 f=10-15(フェムト)、 a=10-18(アット) を意味します。

測定値の表現について
 アッセイの測定結果の表し方には2種類あります。重さと濃度です。
重さで表現する場合:測定に用いたチューブ(tube)、またはウェル(well)当りの標準品の重さまたは単位。例えば、ng/tube、ng/wellとかmU/tube、mU/wellなどです。
濃度で表現する場合:測定試料mlまたはdlに含まれる標準品の重さ、または単位。例えば、pg/ml、ng/dlなどです。
 これを取り違えると大変な間違いを起こすことになります。仮に試料を100μl使って測定したとすると、この場合、pg/mlで表わすと、pg/wellの10倍の数値となります。
 標準曲線(検量線)の横軸に記されている表現のしかたに充分注意すべきです。

4. 標準物質(標準品)について
 相対的にしか表現できないものを表現するには、適当な基準を設けて、それを[単位]として物差しに使わざるを得ません。ホルモンなどにはこの例が多いのです。
 「単位(U)」はある一定の生物活性を1Uとして決めて行く場合と、国際機関(例えばWHO)が一定の標準品を作って、その力価をmg当り何単位と決めて配布する場合があります。例えばNIH-LH-S1、NIH-FSH-S1などは1mgを以って1NIH-Uとしています。
 生物活性を基にしている単位の決め方は、例えばPTHでは、体重8-16kgのイヌに16-18時間以内に血中Ca値1mg/dlの上昇をもたらす量を100USPユニットと決めています。カルシトニンでは、体重100gの絶食雄ラットに静注して1時間後に血漿Ca値を10%低下させる量を10MRCmUと定義しています。
 いずれにしても実際には入手した国際標準品を自分の試料と比較することで測定値を計算することになります。