I.インスリンと関連物質について
インスリンは膵臓のランゲルハンス島(膵島)のB細胞から分泌されるホルモンで,分子量は約5800, 等電点5.4付近の蛋白質です.
A6-A11,A7-B7,A20-B19でSS結合を形成し, 酸性,或いはZnの存在しない中性水溶液では2量体を形成しますが,中性でZn存在下ではZn2個を含む6量体を形成します.
肝,筋肉,脂肪組織が主要な標的組織ですが,それぞれに次のような作用を示します.
肝:グリコーゲン合成促進,蛋白合成促進,脂肪酸合成促進,糖利用の促進,糖新生抑制.
筋肉:糖,アミノ酸,Kの細胞膜透過性増大,グリコーゲン合成促進,蛋白合成促進,蛋白分解抑制.
脂肪組織:グルコースの細胞膜透過性増大,脂肪酸合成促進.
2.インスリンと関連物質(プロインスリン,C-ペプチド)の生合成と構造は?
インスリンは細胞内で1本鎖のプロインスリンの形で合成された後,S-S結合が形成され,酵素分解による活性化がおこってC-ペプチドとインスリンが分離します(図1).
3.インスリンの構造は各種動物でどれ位違う?
表1 各種動物インスリン及びC-ペプチドのアミノ酸配列
インスリンA-chain
インスリンB-chain
C-ペプチド
表2 各種動物インスリンのtotal分子量 (A-chain+B-chain-4で計算)
4.各種動物インスリンの力価はどのくらいか?
Insulinの力価を示す単位(Unit)は元来バイオアッセイで決められたもので,例えば1ウサギ単位は体重2 kgの24時間絶食ウサギの血糖値を5時間以内に半減する量とされていました.
これは大体3 IUに相当します. ほかにもバイオアッセイ法はいくつもありますが,バイオアッセイで決めるには個体差が大きく精度係数(λ)は0.15程度なので正確には出ません.
ラットとマウスでは同じアミノ酸配列を持つ二つの分子量(タイプ1とタイプ2)よりなります.しかし,ラットとマウスではタイプ1とタイプ2の構成比は異なっているので,免疫測定においては,それぞれの動物由来のインスリン標準品を使うことが望ましいでしょう.
インスリンはヒトでは治療目的に使用されますから,特に生理作用をはっきりさせて置く必要があります.インスリンの精製度が十分でなかった時代は重量で扱うのは危険です.
そこで,国際標準品を作って基準とすることになっているのです.
InsulinのWHO第4次国際標準品(1958)はBovine Insulin 52 %とPorcine Insulin 48 %の混合物で,力価は,24 IU/mg(0.04167 mg/IU)と定められていました.その後インスリンの精製度が進み,WHOはヒトインスリンの1st International Standard, 1986 として26 IU/mg(0.038 mg/IU)の精製品を提供しております.同時にウシインスリンについて1st International Standard, 1986, 25.7 IU/mg, ブタインスリン 1st International Standard, 1986, 26 IU/mgを提供するようになりました.これらは1アンプルあたり約50 mg入っています.それ以前にヒトインスリンのイムノアッセイ用標準品 1st International Reference Preparation,1974があります.これは1アンプルあたり3 IUとされております.前述のようにヒトの場合,治療用に用いられますから,それに合わせてヒトの臨床検査での測定値もIUで表現する方が便利なのでしょうが,動物では重量で扱った方がよいでしょう.
各種動物の分子当りの生物学的活性が等しいかどうかわかりません.確かにブタやウシのインスリンは人とほとんど同じ効力を持っているようです.どうしても換算が必要なら,目安として1 mgを26 IUと考えて行えばよいでしょう.